とても歩くことが上手になった2歳前の子どもは、病気や眠い時そして食事以外は絶え間なく体を動かすので、一時として目が離せなくなってきます。家の外には魅力的なことがたくさんあることも覚え、一日に何回も外遊びに出かけるご家庭も多いことでしょう。ようやく大人と同じように歩ける嬉しさからか、散歩に出て大人が手を引くと、すぐに大人の手を払い抱っこも拒否することが増えてきます。無理やり手を引こうものならたちまち泣き叫ぶ子どもさえいる程です。人々の行きかう町や公園で、一人前に歩くということは、何とも得意なことなのでしょう。

得意げに一人で歩きはじめるこの時期、子どもは何度も転び、大人をはらはらさせます。でも自分で転ぶときにまだ本能的に手をつける時期ですので、たくさん転ぶ経験が大切です。子供は転んで少し危ない思いをすることで、歩行の微調整を覚えていきます。特に「はいはい」の少なかったお子さんは、転ぶとうまく手を出すことができず怪我をすることが多くなりますので、お父さんお母さんは、「転ばせたくない」という気持ちが強くなるでしょう。しかしそこで過剰に補助してしまうと、ますますお子さんの一人歩きの機会、そして転ぶ機会を少なくしてしまうことになります。また、大人が突然手を出すとかえって怪我をさせてしまい、結果的に怪我の程度は大きくなります。まだたくさん歩くことが出来ず、自分で歩きたい、でもやっぱり抱いて欲しい、の繰り変しで本当に厄介な時期ではありますが、幼児期・学童期に入ってさらに大きな怪我をしないためにも、歩き始めたこの時期こそ、お子さんが一人で歩くよう励まして、手を貸さずに見守ってあげてください。歩行開始間もない子どもが、たくさん転び、自分の力で立ち上がることは、将来大怪我をしないためだけでなく、その子自身の自立する力・精神力の形成に大きな影響を及ぼします。転んで泣いても「頑張れ!!立てるね」と励まし、立てたら抱きしめてほめてあげる、この繰り返しの中で子供は自分で頑張ることの意味を全身で知っていくのではないでしょうか。

「三つ子の魂百までも」という昔からの言い伝えがありますね。これは、幼い時の性質は老年まで変わらないという意味で使われていることわざですが、最近では、早期英語教育の宣伝で目にした方も多いのではないでしょうか?例えば、3歳で英語を教えられて英語を身につけた天才のようなお子さんの紹介が載せられていて、それを読んでつい焦り、「わが子も!!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、早期教育を強調することは、ことわざ本来の意義からそれたものであり、焦らされる必要は全くありません。そもそも「三つ子」という表現は大変アバウトな表現で、3歳きっかりのことを指しているのではありません。昔の人(私の母親時代)はよく、「かぞえで何歳?」と言う聞き方をしていましたが、赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいた月も含め、2歳過ぎの子どもを「かぞえで3歳」と認識していたのですね。つまり「三つ子の魂」は満2歳までを示すことになります。満2歳までに大切なのは、早期教育ではなく、子どもの「自我の芽生え」に大人がどう対処するか、という問題です。

現代の発達心理学研究では、2歳前後の子どものめまぐるしい自我の成長を重視します。主に、周囲の大人がどのように判断し対応するかが子どもの性格形成に大きな影響を及ぼすという考えで、この時期の子どもの意志を尊重する大切さを説いています。例えば、保育園に通う子ども達と保護者の方の登園時の様子を例にあげてみます。忙しい保護者の方々が、朝夕送迎すること自体、大変なことで、子ども自身も親の大変さが充分分かっている様です。しかし、ひとたび保育園に入ると、玄関から部屋までは自分で歩くと決めているのか、多くの子どもが親の手を振り払って自分で歩き出します。そこで子どもを見守ることのできる保護者の方々は、その後のもっと大きく自分を主張する時期を、やすやすと乗り越えています。この時期、子どもの生理的欲求を大切にすることにより、子どもとの信頼関係が充分に築かれ、その後の子育てが、とても楽しくなるのだと思います。

しかし発達心理学では、この時期が決定的に子どもの将来を決めてしまう、と決め付けてはいません。子供というのは周囲の環境と愛情深い知恵で対応すれば、いくらでも育ちなおしができるという、「人間生涯発達論」の考えに基づいています。2歳前後のお子さんの対応に悩んでおられる方は、保健所や保育園の専門職の方々に是非相談をしてみて下さい。穏やかな子どもも、気が強くエネルギッシュな子どもも、その子なりの表現で自分のしたいことを主張します。時には大泣きで抱えられてしまっているお子さんを見ると、子どもが安心して自由に歩ける場所が少なくなってしまった都会の姿に何とも切ない思いが湧いてきてしまいます。子育て中のお母さんは、どうか子どもの自発性を育てる重要性を念頭において、安心してお子さんを遊ばせられる公園や、園庭開放・保育体験をさせてくれる保育園を探して、どんどん安心できる場所で、繰り返しの体験をたくさんさせてあげて欲しいと思います。そしてこの時期の自己主張を、いわゆる「イヤイヤ期」という表現で片付けるのではなく、芽生えはじめた自発性を大切にして、その成長をおおらかに見守って下さい。