2歳前パートⅡ危ないこと大好き」では、子どもがとてもよく動き、スピードやスリルを喜びはじめた様子、そしてそのことがいかに子どもに必要なことかを述べました。

ひとたび公園の遊びを知った子どもは、決まった時間に外遊びや散歩をせがみます。また子どもの要望に応えようと、お父さん・お母さんは大好きな電車や車を見せたり、きれいなお花屋さんや玩具や絵本の並ぶお店にもお出かけすることでしょう。子どもの世界はぐんぐん広がってきます。お出かけすればお父さんお母さんがよその人と話す機会も増えます。お母さんが笑ったり、お店の人の対応に少々強い口調になったりと、いつもの家の中では見られなかったお母さんの変化に富んだ表情やことばも、子どもは敏感に感じ取っていきます。脳の中で繋がった回線が子どもに様々なことを理解させたり考えさせたりするのです。直接体験し感動を覚えた事柄は、たちまちことばとして発せられることになります。

子どもの中には耳で聞いただけでオウム返しにことばを話し始めるタイプのお子さんもいますが、子どもがことばを獲得していくに当たっては、実際に見たものへの感動や情感を伴ったことばを獲得していけることが何より大切なことだと、私は思っています。「どのくらいの数のことばが話せるか」ではなく、「どのくらい実体験を伴ったことばを話せるか」ということに、私たち大人は気をかけたいですね。

発達心理学の研究によると、子どもの発語時期には、約1年の開きがあるようで、言葉が早い遅いだけで一喜一憂するのはあまり意味がないと言っています。大人の人でも思ったことをすぐに話す人もいれば、大変無口な人も世の中にはたくさんいますから、様々な個性を持った大人たちのもとで育てられている以上、子どもにも個性があって当たり前です。子どもの頃あまり喋らなかったけれど大人になったら人前で講演や演技をする人になった、という方もたくさんおられる位ですから、この時期の発語の時期や発語数にこだわることはありません。それより子どもにとって意味のあることば、心の中でして欲しいこと、大好きなものなどを、子どもなりの発声で表現できることが大切です。

例えば大好きな車を「ぶー」と言えれば、その一声で子どもは「くるまがきた!」「あのくるまかっこいい!」「くるまにのりたい!」「くるまいっちゃった」などなど、色々な気持ちを表現しています。子どもは実に色々なことを感じていますし、自分の好きな事やして欲しいことはたくさんあって、その思いはもう溢れんばかりに蓄えているのですが、それがことばになるにはだいぶ時間がかかる厄介な時期でもあるのです。

そこで、子どもが一言で全てのことを表現しているこの時期こそ、周囲の大人は丁寧に、そしてゆっくりと、子どもが思っているであろう事をことばにしてあげる必要があります。「子供の目線で」ということばがありますが、正にこの時期、丁寧に話しかけることが大切です。街中で辛抱強く話しかけておられるお母さんを見かけますと、本当に心が温まります。大人にはあまり関心のない事柄について、街中で「くるまきたね〜」「かっこいいくるまね〜」なんて大きな声で話すのは恥ずかしい、ばかばかしいと思われるかもしれません。けれどこの時期の子どもへの応答は子どもにことばを教えると言うことに加え、とても大切な大人との心の絆を育てる絶好の時期なのです。

「うちの子ぶーしか言わないのよ」なんて言わず、どうかお子さんのことばにならない心の中のことばを是非感じ取り、引き出してあげてください。子どもは本当にけなげな存在で、自分の好きな事柄をことばにしてくれる大人をたちまち信頼してくれるものなのです。「ぶー」と車を指差し、声を出したら、それは子どもにとっての立派なことばです。前後の体験・子どもの表情・体の表情などから子どもが言いたいことを感じ取っていく感性を持つことが、保育園で保育に当たる保育士さんたちの大きな課題でもあります。保育士さん達には、口数の少ない、大人しい子どもの仕草こそ見逃さず、適切な声かけをする様に、指導しています。

2歳までの時期はとにかく、一人ひとりの個性に合った生理的欲求を満たしてもらうことが、何より大切です。そして、大人からのシャワーのようなやわらかい声かけをたくさん浴びて育った子どもは、「大人の愛を信頼できる子ども」に必ず育ちます。2歳までに人間としての基礎的信頼を育むことは、私たちの保育園のとても大切にしているテーマでもあります。