生まれて間もない赤ちゃんは、授乳後おむつも変えてもらい眠り始めると、“ふわーっ”と顔の表情がゆるみ、気持よさそうに微笑みます。2~3ヶ月になり、大人にあやされると笑う本格的な“笑い”の前の「微笑反応」は、生理的には明らかに気持ちの良い状態であることは間違いありません。授乳でへとへとに疲れてしまっているお母さんも、この幸せそうな微笑を見ると、何とも嬉しい気分になることでしょう。

 この微笑反応は、お母さんや他の大人達から声をかけてもらう為に、お腹の中にいる時から秘かに赤ちゃんが準備をしていた能力ではないかと説く人もいます。眠りながらも赤ちゃんの脳は活発に発育し続けますが、その間、少しでも大人達からの優しい声かけを待っているのだと思うと、何とも赤ちゃんの存在が愛おしく思えます。

 この半睡状態で見せる「微笑反応」が見られなくなる頃、赤ちゃんが目覚めている時間に名前を呼びかけ、話しかけてあやすと、赤ちゃんはあやしてくれる人の目を見て笑い、さらに大人達が笑う姿から声をたてて笑うようになります。この頃の赤ちゃんの目はもっぱら大人の目元・口元に集中しており、赤ちゃんは特定の大人でなくてもあやしてくれる人に対し警戒心はありません。そして、大人の人達からあやされる体験が多ければ多いほど楽しそうに笑う子になりますが、良く笑うので大人達も余計にあやしてくれるといった相互作用を引き出す、大変得な性格の子供に育っていきます。

 ところで以前保育園に、5ヶ月を過ぎても全く笑わない赤ちゃんが入園してきた事がありました。お母さんは授乳やおむつのお世話に一生懸命で、大変清潔好きの様子、赤ちゃんは丸々と健康そうに育っていました。ところが、赤ちゃんが目覚めている時間にあやしても一向に笑ってもらえませんでした。そこで、「どのようにあやしたら笑いますか」と尋ねたところ、「この子は笑いませんよ」とのお母さんからの答え。そこで、クラスの担当以外に看護師・主任・園長と言った他の職員が根気良くあやすことにしました。楽しく子育て①に書いたように赤ちゃんの眼を20~30センチの距離から覗きこみ、笑いかけたくさん話しかけているうちに、1ヶ月もたった頃、可愛らしい顔で笑ってくれるようになりました。お母さんは、生まれたてからの授乳や入浴・洗濯その他の家事を懸命にこなしてこられ、さぞ大変だったのでしょう。赤ちゃんに笑いかける余裕がなかったのでしょうし、他方生まれてからずっとお母さんと二人きりの時間が多かった赤ちゃんも、笑いを覚えることができなかったのです。さて、赤ちゃんが笑うことを覚えて1週間ぐらいが過ぎた頃、お母さんがやってきて「うちの子笑ったんですよ。可愛いの・・・!!」とおっしゃいます。そのお母さんの顔も、とても嬉しそうな笑い顔になっていました。子育てに必死だったお母さんにようやく子育ての喜び・楽しみが出来た事を心から嬉しく感じられた思い出深いエピソードです。

 このように赤ちゃんが獲得していない感情表現は、子ども達が大きく成長していく節目の出来るだけ早い時期に育ち直す必要がありますが、乳幼児時期であれば、決して不可能なことはありません。人間の持つ基本的感情(喜怒哀楽)が育つにあたっては、乳幼児時期に接する大人たちの感情表現が大きく影響します。適切な感情表現を適切な時期に獲得することは、その後の様々な社会的能力の発育の基礎となる、大変大切なことなのです。それでも、たった一人で子育てを頑張っているお母さんは、「赤ちゃんに笑いかける余裕なんて全くないわ」といったことが本音かもしれません。

 現代社会では、お母さんが孤軍奮闘せざるを得ない場面が多く、子育てをたくさんの大人の人たちで分担できているケースは稀になってきているかもしれません。でもそんなときは、保育施設などの助けを借りることを考えてみてください。今年度より、保育施設の全てに、地域の子育て中のご家庭に「子育て支援」の活動が義務付けられました。訪ねて行かれる保育施設は、全て訪ねてみてください。各保育園で取り組んでいる子育て支援活動を通して相談してみたい保育士さんや子育て仲間も出来るかもしれません。他にも自治体が主催している子育てサークル活動もたくさんありますので、子育てを一人で抱え込んで悩まないよう、出来るだけたくさんのお友達をつくって下さいね。お母さんが人と会ってたくさん笑う場面をつくり、さらにその笑顔がお子さんを育てていくという相互作用が、楽しく子育てしていく重要なポイントだと思っています。