出産後2~3ヶ月が過ぎると、赤ちゃんの視野は広がり、色々なものが見えてくるのでしょう、抱かれて部屋を歩くだけでも首を左右に動かし、興味深げに周囲を見回します。そして眼を合わせ、名前を呼んであやしてあげると、にっこり笑ってくれるようになります。赤ちゃんのこの笑顔は出産以来のお母さんの苦労をすっかり吹き飛ばしてしまいそうです。この様に赤ちゃんの成長が目に見える形で変化する時、お母さんもご自身のこれからについて考えるのではないでしょうか? 産休、育休が約束され、安心して育児に専念できる期間を決められている方以外、出産した女性達は自分自身のための時間の確保や社会復帰の現実的な難しさに直面するのが常です。

 40年も前のことになりますが、私も待望の長女を出産し、ちょうど体調がもとに戻ってきた2ヶ月過ぎ、手帳が真っ白になり愕然としました。どうしても仕事に戻りたかったので役所に保育所への入所申し込みに行ったところ、けんもほろろに追い返され、申し込みすら出来なかったことを覚えています。当時の保育園はごく限られた対象者(経済的な困難のため「やむなく」働く女性)を救う目的のものであり、「一般的労働力としての女性」や、「自己実現を目指す女性」をサポートするという考え方は全く含まれていなかったのです。その後長女・次女が保育園に入園できたのは2人とも3歳になってからで、結局は出産前の仕事は続けられずじまいでした。その過程で保育園数の不足を痛感し、後輩の女性達の為に保育園づくりを決意したといういきさつがあります。

 40年前当時の保育園や女性をめぐる通念は、今でも根強く残る「子どもが3歳になる迄は母親が育てるべき」という通念に現れていると言えるかもしれません。しかし、そもそも母親が赤ちゃんと1対1で育児をすることは、子供の成長にとって最も望ましいことなのでしょうか? 私は全く反対に、とりわけ子供の本性に従った自然な成長の観点から、母親が子供をできるだけ多くの人に安心して積極的に託せるようになるべきだと考えています。

 楽しく子育て①で書いたように、赤ちゃんはただ保護を必要とする受動的で弱いだけの存在なのではなく、ごく小さな頃から個性や知的好奇心を備え、積極的に世界に関わろうとする力強い存在です。それぞれの子供の個性や好奇心は、愛のある複数の人たちとの関わりのなかで刺激され、子供同士の群れの中でのコミュニケーションを通じていっそう磨かれていきます。安心できる環境のなかで信頼のおける多くの人たちと触れ合えることは、赤ちゃんの発達にとって、何より必要なことなのです。 しかし地域社会が大きく変化した現在、ご近所とのお付き合いも少なく、緑や公園の少ない都会での子育ては大変です。子ども達が沢山の友達と遊びながら育つという、成長の上で最も大切な事が、一家庭内においてのみでは実現困難だからです。一方託児施設は子供たちに、親が提供困難になりつつある環境を準備してあげる事ができます。

 前述したようないわゆる「3歳児神話」の背景には、安心できる施設が不足していた昔の社会事情が関係していると思いますが、現在では40年前から思えば保育園の数も質も向上し、各保育園が取り組んでいる地域の子育て支援の活動も大変活発に行われています。 保育園はただ「子供を預かる場所」ではなく、保育を専門とする保育者たちが真剣に子供の発達に良いことを探求し、在園児の保護者の方以外に地域の子育て家庭に対しても子育ての支援を行う場所へと変わってきています。どの保育園も時代が要求する保育を行うために懸命に努力しています。 このように都会では特に子供たちが健全に育つ場所として保育園が多いに期待され、その希望者数も年々増え続けているのに、まだまだ保育園の数が不足している事は、今や政治における最大のテーマとなっています。社会的に保育所の数が整う事を願うと同時に、併せて親たちの意識の上で「子育てを社会全体で」といった考えを持つ事が必要な事ではないでしょうか。

 子育てを巡る問題を考えるにあたっては、問題を女性個人の人生の問題に還元して終わりにするのではなく、社会全体の問題として私たち皆が意識的に考えていくことが何よりも重要だと思います。40年前から状況が変わりつつあるとはいえ、女性が何としても仕事を続けるには、職場の理解・保育園への入所・子どもの病気の時の家族のサポートなどなど、難問題が多すぎます。また、前述の「3歳児神話」は、社会事情が変わった現在でさえも私たちの意識のなかに根を下ろして、再び働こうとするお母さんたちの足を止めているようです。ごく親しい方々から「赤ちゃんを保育園に預けるなんて何て可哀想なの!!」と出産後働き続ける事に反対され、仕方なく仕事を止められた方も少なくありませんし、いざ生まれてきた赤ちゃんの可愛らしさに、産休・育休を約束されている方でさえ仕事復帰に悩まれるお話も時々伺います。様々悩んだ末、家庭での子育てに踏み切った方々は、夢に見た子育てが理想通りにいかない事に、新たな悩みを抱え込むことになることも少なくないようです。

 産後、体が回復してきたら、「3歳児神話」にとらわれず、子供を信頼できる人たちに託してみませんか。お子さんの持つ可愛らしさを複数の人たちと分け合うこと、子どもの成長を共に喜び合える沢山の人々が身近にいる事で、子育ての楽しさが感じられるはずだからです。 保育をする側の私たちは、保育園で毎日子供たちに囲まれる仕事をとても幸せに感じています。そして子育ての楽しさ、幸せを皆で共有するためにも、小さな赤ちゃんの時から子供を預けられる安全で楽しい託児施設を今後さらに増やし、皆が積極的に利用してゆく流れを定着させていくことが大切ではないでしょうか。