首も据わり視野も広がってくる4~5ヶ月になると、赤ちゃん自身が周囲の世界に好奇心を示し、外の散歩を好むようになります。そしてよく知っている人とそうでない人への反応も微妙に変化してきます。抱かれて移動する楽しさや、大人の人にゆらゆらゆすってもらう楽しさも分かり、段々と大人の変化に富んだ対応を「要求」し始めます。もちろん赤ちゃんはまだ言葉を話せないので、何を「要求」しているかはっきりと見分けることはできませんが、明らかに何か不満そうにぐずって泣いたり、声を高めてご両親を呼んだりします。これに大人が知らん顔をしないでじっくり付き合ってみると、何らかの事(例えば抱っこしてほしい、歩いてほしい、など)を求めて泣いるように思え、実際それをしてあげると満足そうな表情を見せます。このように段々と自分から何かを要求をしてくる赤ちゃんを相手に、お母さんたちは産後間もない頃とは違った大変さを実感されるのではないでしょうか?それでも赤ちゃんの自発的「要求」には耳を傾け、丁寧に対応してもらいたいのです。

 赤ちゃんの「要求」のもっとも分かりやすい形は、「泣く」ことです。よく「赤ちゃんは泣くのが仕事」と言われますが、赤ちゃんたちが理由なく泣いていることは、まずありません。赤ちゃんたちには必ず何らかの不快要因があって、それを取り除いてほしいと泣くのですが、そこでどう大人が対応するかで、感情の発達の方向が変わってきます。私が子育てをしていた40年前、「泣いている赤ちゃんをすぐに抱き上げると、抱き癖がつく」といった考え方のアメリカの育児書が出回ったことがありました。赤ちゃんを甘やかさず早く自立させるという考え方の育児法で、両親との別寝室を奨励した考え方でした。世代的には現在子育て中のお母さんのご両親が、この育児書を読まれたことになります。しかしすぐに日本の育児にはそぐわないと、日本に伝承されている古来の育児の良さを強調した育児書が出版されました。特に乳幼児時期は両親の間に挟まれ川の字で眠り、赤ちゃんの心の安定を優先させて、その後薄皮をはがすように子供の自立を進めるというこの本の考え方は、発達心理学の領域に大いに影響を与えたように思います。

 「泣いてもすぐに抱き上げない」という考え方を徹底するなら、赤ちゃんの要求のいくらかは無視しなさいといっていることに等しくなりますが、そうすると赤ちゃんが自らの生理的要求を表現しない(できない)ようになっていく恐れがあるので、私は賛同できません。 かといって、すぐ抱き上げて赤ちゃんを全く泣かせないことを目指すのでもありません。泣くことをしばし見守り、「おなかがすいたのね」「抱っこしてもらいたかったのね」といった、泣くことを受け止めた声かけによる対応で、コミュニケーションが豊かになっていくことが一番大切だと思います。(「楽しく子育て②」もご覧ください。)

 子どもたちの人に対する好奇心・興味の基礎は生後5ヶ月の間にめざましく育つと言われています。私たちの保育園の0歳児クラスに入園してくるお子さん達は、大半がすでに何らかの保育施設を経験しており、“人見知り”という特別な時期に入っていない限り、入園してすぐに私たち保育者に慣れてくれます。ご両親と、それ迄過ごした保育施設の保育士さんたちの努力の結果でしょう、生活リズムも明確に整っていて、私たちがあやすとニコニコとした笑顔が返ってきます。又、要求がある時は邪気のない泣き声で大きく訴えてくれます。もちろん、集団生活を経験した赤ちゃんとは反対に、毎日お母さんと二人きりで静かに過ごしてこられた赤ちゃんが入園することもあります。あるとき、そんなお母さんの一人が入園後まもなく、「保育園に入園したらよく泣くようになりわがままになった」と真剣に相談されてきたことがありました。お母さんは目に見えた変化に戸惑われたのでしょう。しかし、心配はご無用。この時期の赤ちゃんに「わがまま」というものは何ひとつ無いので、泣くという手段しか持たない赤ちゃんが、「しっかり泣けるようになった」ということは、大変「成長した」ということになるからです。ご家庭でもおじいちゃんおばあちゃん、親戚の方やお友達が遊びに来られた日などは妙に興奮して、その後泣き声が多くなったといった経験はありませんか?赤ちゃんにしてみたら「あのときのあの楽しさをもっと~」といって泣いているのかも知れません。大切なのは、赤ちゃんがしっかり自分の快・不快を表現できること、そして大人がそれに応じて丁寧に対応することであって、「泣かせない」ことでも「泣かせたままにする」ことでもありません。

 4~5ヶ月になる赤ちゃんの要求は、その殆どが生理的なもので、赤ちゃんにとって是非とも満たされることが必要なことばかりです。そして単純にその要求が満たされることにより生理的快の感覚が育ち、段々と快を求め不快を取り除いて欲しいという要求を訴えてきます。泣くことは、赤ちゃんが不快を訴えるための手段なので、「泣く力」をこれまでの時期に育てておくことは大切なことです。またそれ以上に赤ちゃんの心の中に、不快を取り除いてくれる大人に対し、絶大なる信頼の気持ちが育つことを、知っておいて頂きたいと思います。安心できる大人が大好きになり、ずっとそばに居たいという愛着の気持ちが日々育つからです。大人を信頼し、大好きな特定の人が赤ちゃんの心を満たすことによって、母乳やミルクの栄養だけでない心の栄養が赤ちゃんの身体をも大きく育てます。この心の育ちこそが赤ちゃんの愛らしい笑顔を生みますし、その赤ちゃんは人に愛され、人に興味を持つ子どもに成長していきます。これは、家族以外の大人の反応が感じ取れる社会性(他人に迷惑をかけないといった感覚)の基礎ともなる、大切な感覚なのです。