はいはい・おすわりそしてつかまり立ちと、歩行が開始される1歳前の赤ちゃんは、目に入る様々な物に興味を持ちます。おすわりやつかまり立ちを覚えて赤ちゃんの目線が高くなった分、部屋の中で今迄見えてなかった物も目に入るからでしょう、「絶対に手が届かないだろう」と大人たちが思っていたものに易々と手が届くようになります。本棚などは赤ちゃんにとって格好のねらい場所なのか、上手につかまり立ちをしては、片方の手でびっくりする様な力でもって、立てかけてある本を次々に引っ張り出し落としてはご機嫌な様子です。

 ところで、そうした本の中にさりげなく赤ちゃん用の絵本をもぐり込ませておいて欲しいと思います。ひとしきり絵本を放り投げ、自分の手でめくってみて、玩具代わりに遊んだ赤ちゃんは、ページをめくると絵が変わり、中には自分の知っている車や、食べるものの形が描かれていることを発見します。時にはお母さんに読んでもらうことにより、いよいよ絵本は読んでもらうとすごく楽しいと気づきます。ひときわ本を大事に思っているご家庭では、さっさと本を片付けてしまうこともあるかもしれません。この時期の赤ちゃんにいくら「本を引っ張り出しちゃだめよ」と言っても記憶力が発達していないので理解できることではないからです。それでも、この時期の「玩具としての絵本」との触れ合いは、後々の「物語としての絵本」への興味へとつながる、大変重要なものなので、是非大切にしてほしいと思うのです。

 私のように貧しい時代に育ち、しかも「本」という物にとりわけ権威があるように教えられた世代の者には、0歳児の赤ちゃんに本を玩具の様に与えることには、もちろん勇気がいりました。けれど赤ちゃんの好奇心を満たしてあげる為には、たとえ絵本を放り投げたりなめたり、びりびり破かれてしまっても、それは赤ちゃんにとっての大切な遊びと考えています。実際に保育園の0歳児の部屋では読んであげる絵本は別の戸棚にしまい、つかまり立ち赤ちゃん用の絵本を何冊かラックに立てかけて遊ばせています。本やら雑誌を本箱から次々に落とすことが面白いのですから、上から落ちても危なくない程度の本に置き換えておくのも良いでしょう。赤ちゃんの活発な動きを大人の感覚(例えばいつも部屋が整然と整っていないといらいらする)などから、あらかじめ本棚を空っぽにしてしまったり、「だめよ・だめよ」と制することは、赤ちゃんの育ちつつある好奇心・求知心全般を妨げる結果になってしまうので、避けてほしいと思います。小学校に行ってから「この子は本当に意欲がないのだから」と言っても遅いのです。

 2歳近くなって絵本を読んであげようとしたお母さんが、「読んであげてもすぐにページをめくりたがってじっと見ていないのです」と悩みを訴えて来られることが良くあります。赤ちゃん時代に自分で絵本しらべが充分に出来ていないお子さんは、お母さんの絵本読みが始まると、自分の手でまずは絵本を調べてみたくなるのではないでしょうか。そのようなお子さんには、しばらく絵本を自由に触らせてあげて下さい。そして興味を示したら無理なく読んであげることで、「絵本っておもしろい!!」と思ってもらえるよう、根気良く見守ってあげて欲しいと思います。

 この様にしきりに探索した成果として赤ちゃん自身から、絵本を読んでもらいたいという要求を徐々に示せるようになってきます。そこで是非赤ちゃんをひざに乗せて、ゆったりとした絵本読みの時間を作るように心がけて、歩行開始前の興奮気味の赤ちゃんを落ち着ける時間にしてみて下さい。赤ちゃんの興味が持続するのは1~2冊がやっとですが、段々と絵本が置いてあるところを指さし、「あっあっ」と絵本に対する関心を示せるようになってきます。「絵本が好きなのね。」「絵本を読んで欲しいの?」と必ず言葉にしてあげることが、これからの赤ちゃん自身の発語に大きな影響を与えます。

 2才近くなり午睡・夜の睡眠時間が決まってくるようになったら、入眠前に絵本読みの習慣を作るとそれまで待てるようになりますが、歩行前の赤ちゃんにはそれが分かりません。赤ちゃんが望んでいるようだったら、その都度ひざに乗せて絵本読みをしてあげて欲しいのですが、忙しいお母さんには毎回付き合うのは難しいに違いありません。絵本読みに限らず、赤ちゃんの要求全てに付き合うことは至難の業です。そうした時には(楽しく子育て でも書いていますが)ゆっくりはっきり、赤ちゃんの目をしっかりと見ながら、「もう少し待っていてね、今とっても忙しいのよ」と伝えてあげて下さい。赤ちゃんにとって、要求がいつでも全て叶えられない事を知って行くのは大事な事ですし、お母さんにとっても、対応できないときに赤ちゃんを無視するのに慣れっこにならない為でもあります。

 絵本読みの習慣ができると、これから小学校の低学年迄、入眠前の大人による絵本読みを子ども達は大変楽しみにし、読んでくれる大人に対し絶大なる信頼を寄せてくれます。絵本は子どもの知りたい欲求を充たし、何より美しい心を育てます。ただし絵本読みに関しては、読み手である大人が気をつけなければいけないことがあります。まず絵本読みによって、字を覚える等の教育的効果を期待しないことを肝に銘じておいて欲しいと思います。そして絵本選びは一定の子どもの成長に見合ったもの・実際に体験したもの(別表)を選んであげて下さい。絵本選びは子どもが絵本好きになるかならないかの分かれ道と云っても過言ではありません。読んでいる最中、お説教をしたり、絵本の内容を必要以上に説明をしないことも重要です。また、絵本を読んでもらい子ども達が何を感じたか、質問責めにしないことです。子ども達の質問には答えてあげて、子ども達自身の様々な感じ取りを大切に見守ってあげてください。こどもたちの大きな器に、たくさんのあらゆるジャンルの絵本を、私達大人はただただ気前良く読んであげるだけで良いのです。子ども達は次々に起こる、知りたいと言う欲求を満たすことを通して、自らの内面を充実させて成長していきます。

 好奇心に満ち溢れた歩行開始前の赤ちゃんは、絵本の絵の色や知っている物の形に感激し、お母さんやお父さんの優しい言葉によって経本の絵と自分の心とをつなげてもらい、時には読み手の顔を確かめつつ、安心と喜びの中で、いつの間にか力をためて行くのでしょう。