10ヶ月を過ぎ、初めてのお誕生日を迎える前になると、赤ちゃん達の個性はますますはっきりしてきます。身体の動きが軽く、両親の素晴らしい運動神経を引き継いだ赤ちゃんは、10ヶ月を過ぎるか過ぎないうちに、つかまり立ちから伝い歩きを始めて周囲の人をびっくりさせます。好奇心が強くじっくり型の赤ちゃんは、目に入る全ての物をはいはいで行って手に取り、あれこれ眺めては相変わらず最後は舐めて一番確かな口の感触で調べています。おっとりタイプの赤ちゃんは、お座りでかなりの時間遊んでくれる子もいます。歩行を始める時期が赤ちゃんによって半年から8ヶ月近く違っていても、それぞれの個性の差ですから何も心配はいりません。

 ところが知り合いに同年齢の赤ちゃんがいる場合、どうしても赤ちゃん同士の成長を比較しがちです。特にこの歩行開始に関しては、「10ヶ月で歩き始めた赤ちゃんがいる!」ということを知るとどうも落ち着かなくなってしまうお母さんがいらっしゃるようです。そして特にご自分のお子さんがスローペースで育っているような場合「どこか悪いのでは・・・?」と真剣に悩んでしまわれます。最近は、お子さんの成長のデータを保健所などでかなり正確に掴んでいて、お母さんが安心できるように指導して下さるので、是非こんな場合は保健所を尋ねてみて下さい。また保育園などの一日保育体験でたくさんのお子さんの姿を見て頂き、保育士達からの情報も聞いて貰えましたら、お子さん達の個性について実際の体験からお伝えできると思います。

 この時期、とにかく気をつけて頂きたいのは、知り合いの方、親戚の方のちょっとした一言に悩んでしまわぬように、と言うことです。実のお母さんから「この子の発育遅いのとちがう?」などと言われ「ずっと悩んでいました」と言われたお母さんがおられました。おばあちゃんご自身の体験だけが物差しになっている場合の一言でお母さんがずっと悩んでしまうことのないよう、是非専門家を頼ってみて下さい。

 さてこのように歩行開始時期は、体質・性格によってそれぞれの赤ちゃんが実に様々な動き方をしますが、赤ちゃん達に共通なことは、生活の中でとにかく大人の動きをよく見ているということです。玩具でももちろん遊びますが、すぐに放り投げて、「何か面白いものないかな?」という様子で部屋のあちこちを探索し、お父さんお母さんが手にしたものに興味を向けます。特にお出かけのとき必ず手にする鍵や携帯そしてお財布などが何と言っても興味の対象ですが、こればかりはいくら赤ちゃんが欲しがっても決して与えないようにしましょう。鍵や携帯そしてお財布は清潔とは言いがたく、これから先ずっと赤ちゃんの目に入る物です。欲しがられるたびに渡すことになると、赤ちゃんに対して大人の領域を理解させることが難しくなってきます。「これはお母さんのだいじだいじ」と言葉を添えて伝えるうちに、赤ちゃんは「興味があってももらえないものがある」と言うことを理解し、他の「だいじ」な対象についても同様の態度をとれるようになっていきます。

 こうしてお父さんお母さんの持ち物に興味を示す赤ちゃんは、当然ながらお父さんお母さんの表情を実によく見ています。「あっ、ここに面白そうな物があったよ!」とか「これ怖くない?」等一つひとつ新しい発見のたびごとに、近くにいるお父さんお母さんの表情を確かめます。赤ちゃんにとっての言語の基礎となるコミュニケーションの始まりです。赤ちゃんにとっては自分の心で感じていることを言葉に発する迄はまだまだ当分の時間がかかりますが、お父さんお母さん、あるいは近くにいる保育者から、「面白いね」とか「怖くないよ」等、赤ちゃんが感じているであろう事をはっきり・ゆっくりした言葉で伝えてあげることが、赤ちゃん自身の発語に大きな影響を与えるのです。赤ちゃんが大抵の事を理解したとしても、実際の言葉でお話が出来るようになる迄には時間がかかります。たくさんの言葉をかけてもらうことにより、赤ちゃんの頭の中に言葉の貯蓄がたくさん出来ていくのでしょう。赤ちゃんの心に様々な思いが浮かんでも、側にいるお父さん・お母さんの顔を見上げた時、お父さんは新聞、お母さんは携帯などに気をとられてばかりいたら、赤ちゃんの方がお父さんお母さんに何も期待しなくなってしまいますので、注意したいところです。

 この他にも遊具で遊んでいる赤ちゃんに、遊具がだす音を「ガラガラ」「コトコト」「カタカタ」などの擬声音をたくさん発して遊んであげて欲しいと思います。赤ちゃんの頭の中に様々な擬声音がインプットされていくと、次に遊ぶ時、そのフレーズが頭の中で蘇えりつつ遊ぶので、遊具での遊びも長く続きます。赤ちゃんが様々な活動を通して耳にする生活音を言葉に代えてあげる“擬声音”は赤ちゃんの豊かな語彙を育てる為に大きな役割を果たします。子育てをしながら仕事を続けておられるご両親は大人同士の会話に慣れておられることでしょう。赤ちゃん用の言葉を発することは少々照れくさい事かも知れません。これから大人の人と何不自由なく会話できるようになる4~5歳まで、どうしても大人の方が子どもの発音に近づけてあげる必用があります。いわゆる赤ちゃん言葉で「ブーブー」「ニャンニャン」「マンマ」などの言葉を使ってあげて、生活の体験が言葉で表現できるようしてあげると良いと思います。そのことでお父さん・お母さんと心が通ずることが何より大切なことだと思います。

 ただし、赤ちゃん言葉を使う上で気をつけなくてはならないことは、「マンマたべまちゅか~?」といった言い方です。「マンマ」と言うところは赤ちゃん用に変えてあげても良いのですが、「たべまちゅか~?」の「大人からみた赤ちゃん語」とでも言うべき表現は、赤ちゃんに勘違いを起こす結果になります。こうした表現に慣れてしまうと、文として言葉を発するようになった時、自分の表現がお友達と明らかに違うことに気付き、急に喋らなくなったお子さんがいます。名詞以外の部分は子供たちが成長しながらずっと使っていく言葉ですから、正しく表現して下さい。赤ちゃんに分かりやすく伝えつつ、私たち大人は、基本的には正しい言葉で話す必要があるのです。大変厄介な時期になって来ましたが、今後の大きな飛躍を楽しみに見守ってあげましょう。