4歳近くなると、各ご家庭の生活の中で決まった時間に絵本を読んで貰っているお子さんは少なくありません。私達の保育園でも0歳児の後半からは、午睡前の決まった時間に2~3冊の絵本を読んでもらっていて、4歳前のこの時期には大半の子どもたちは絵本が大好きになっています。私たちが絵本読みを大切に毎日に行うのは、絵本の世界に親しむことに大変重要な意味があると考えているからです。

 この年令の子どもは、現実の世界では好奇心に満ち溢れ自分の力で行ってみたいところ、見てみたいものがたくさん出てきています。けれど体力的には自分の体より大きい存在にはかなわないということ、自分の力だけでは行けない世界があることもわかり始めてきます。その点絵本という「おとぎの世界」では主人公がワルモノをやっつけたり、夢のような美しい世界への冒険にも連れて行ってくれて、現実の世界の束縛や危険なしに好奇心を満たすことができます。安全に冒険したり新しいことを体験できる世界が、絵本の世界なのです。

 とはいえ、「おとぎの世界」は子どもにとって魅力的である反面、やはり未知のものにある「怖さ」はついてまわります。この年齢の自分は非力なので、「こわいものはこわい」のです。ですからお話をしてくれる大人が誰であってもよいという訳ではありません。絵本を読んでくれる人は子どもにとっておはなしの世界に連れて行ってくれる案内人でもあるのです。この役には子どもから大きな信頼を得ていることが必要ですから、私たちの様な保育者やお父さん・お母さん・おじいちゃん・おばあちゃんが最適任者ということになります。

 絵本は私たち大人が読んであげることにより、初めて生きた物語として成立します。現実の肉体をもった信頼する大人が、大好きなやさしい声で読んでくれることで、ストーリーが共有され、生きたものとして体験されるからです。そして子どもにとって大好きな大人が自分のために読んでくれる時間こそ、大人の愛を直接感じ取る貴重な時間です。子どもたちは読み手の声が全て自分に向けられていると感じます。その声を心地よく感じ、読み手の大人がもたらすお伽の世界に愕き、喜びと共にその大人からの愛を感じ取ります。

 しかし、真剣に絵本を見て、お話を聞き入っている子どもの前で、私たち大人についつい力が入ってしまうと、せっかくの絵本の時間が、大嫌いな時間になりかねません。「字を覚えさせよう」「絵本のなかで言っている知識を確認しよう」などと考えて、絵本を読む度に「なんていっていた?」「最後はどうなったの?」など子どもに質問攻めの読み方は、子どもが絵本嫌いになるのでやめて貰いたい事の一つです。また絵本を読んでいる最中に質問してくる子どもに「黙って聞きなさい!」と叱りつけるのも子どもにとっては不満でしょう。保育園でもよく質問してくる子どもが居ますが、一旦止めて答える場合もありますし、あとで答えることもあります。子どもが質問する位真剣に見ている事を念頭におきつつ、話の世界に入り込む助けに徹することが大切だと思います。

 絵本を読むことが「知識を与えること」「教育的なもの与えよう」になってしまうと、4歳前の年齢になると、もう絵本を嫌う子どもになってしまいます。絵本は、目先の知識の習得ではなく、今後広い世界を知る好奇心を養う基盤として一層重要なので、細かい情報伝達にこだわらず、子どもの好きなものをきっかけに物語の世界を共有することを大切にしてほしいと思います。その意味では、キャラクターや漫画のような視覚中心の絵本であっても、一緒に楽しめる世界があれば、否定することはありません。大人の基準で選んだ「良質の絵本」だけを押し付けず、それぞれの子どもの興味を大切にしてあげて下さい。

 絵本を大好きになった子どもに、毎日絵本を読んでとせがまれたとしても、絵本読みの時間を各ご家庭で作ることはとても大変なことと思います。お忙しいお父さんお母さんにとっては、時間がとられる絵本より、テレビやDVDを観ていてくれれば「子どもが静かにしていてくれて助かる」とお思いになるかもしれず、その気持ちも良くわかります。 テレビやDVDも、時間を決めて子どもと一緒に観ることにより、子どもの心(驚き・楽しさ・悲しさ)の動きを感じ取り共有できるとても楽しい時間にすることができます。けれど、子どもを放っておく手段としてテレビやDVDを利用することは、やはりお勧めできません。

 ある子どもが、DVDなどを一人で見ることがいかに寂しく怖いことかを私に語ってくれたことがありました。5歳になっていた男の子でしたが、「もののけひめ」のDVDを観ていたらいつの間にお母さんが寝てしまって、一人で終わりまで見たそうです。「とってもこわかった!」と言い、DVDを借りてきたお店まで怖くなってしまったらしく、そこまでの道を詳しく話し、どんなに怖いかを私に話していました。また、子ども時代にテレビやDVDを長時間観ていたある人が、子ども時代を振り返って「内容はすっかり忘れたけれど、とに角寂しかったことだけは覚えている」と語ってくれたことがありました。わたし達大人はこのことをきちんと受け止める必要があると思います。

 大人がいないと成立しない絵本には、テレビなどが陥りがちな危険もなく、多くの独自の良さがあります。まずどこにでも持って行けますし、大人まで繰り返し一緒に楽しめます。そうは言っても、新しい絵本を全部本屋さんで買ってくることは大変なことでしょうし、何を読むべきかも悩ましいところです。そんな時は、まず自分の自治体も図書館を利用してみましょう。多くのところが整備されていて、たくさんの新刊が並んでいます。また古くなった絵本を専門に売っているお店もありますし、日曜日などに開かれているフリーマーケットで大きくなったお子さんの絵本を格安で売っていることもあります。

 子ども達に絵本を読んであげる時、「もっと驚かせてあげよう」「もっと面白がらせてあげよう」と思うと、読み手のわたし達自身の心が躍り、何にも変え難いすばらしい時間になるはずです。子どものかわいらしい驚きや笑い声を経験をされると、午睡や夜の入眠前の絵本読みは大人にとっても楽しい時間になるでしょう。絵本を通じて楽しい時間を過ごした子どもは、何より絵本を読んでもらいたくて、率先してお布団に入ってくれるようになるかもしれません。そうなればしめたもの、いつの間にか絵本がお子さんの生活リズムを整えてくれる必需品となることでしょう。絵本読みは面倒なことに思えますが、絵本の「おとぎの世界」を一緒に楽しめる時間も、子どもからのプレゼントです。どうか大切に楽しんで頂きたいと思います。