間もなく5歳を迎える子どもは、身体能力が大きく成長し、活発になってきます。お父さん・お母さんに連れられてのお出かけも、自分の足でかなりの距離が歩けるようになって、「抱っこ!」とせがむことも少なくなった事でしょう。体力がついてきた分、お休みの日に家の中で静かに過ごすことが難しくなり、親だけが相手となるにも限界があります。そこで、子どもの元気につきあってくれるお友達の家や、祖父母を中心とした親戚の家が、この年齢の子どもに理想的な休日の遊び場となります。親しい他人の家を行き来しているうちに、自分のことを知る親以外の大人を信頼する心が育ち、長い時間お父さん・お母さんから離れて過ごせるようになります。この年齢の子どもが出会う「親以外の大人」の大切な役割は、家の外の社会で守られている「善悪」の基準を伝える、ということです。そこで、おじいちゃん、おばあちゃんとの関わりを例に考えてみましょう。

 お父さん・お母さんから禁止され注意されることも、おじいちゃん・おばあちゃんなら何も言われずにすんでしまう事を徐々に知り、「大人たちはみんなそれぞれ違っているな」という事を感じていきます。ある時、おばあちゃんらしき人と連れ立って、うれしそうにソフトクリームを食べている5歳前後の女の子を見かけました。通り過ぎざま、女の子が「ママにはないしょにしとこうね」と、あどけない声で言ったものですから、おばあちゃんらしき人は苦笑しつつ、「内緒なんて‥」と口ごもっていました。

 たとえおじいちゃん・おばあちゃんが「黙っているのだよ」と言ったとしても、両親に話してしまうのが子どもというもの。この時期の子ども自身、大人の考え方の違いを敏感に感じ取っており、その事を疑問に思っています。大人たちが子どもの言うなりになってしまうなら、「我がままを聞いてくれる人には何でもできる」というメッセージを伝えることになってしまいます。そこで、ご両親が大切にしたい食習慣やルールについては、子どもに関わる大人たちが同じ行動を取り子どもにそれを伝えられるよう、話し合うべきだと思います。買ってくれたおじいちゃんおばあちゃんを悪く言うのではなく、「これこれの理由でねだられても断ってね」とか「買うなら○○の品にして」「○○の店で買ってね」とはっきり伝え、大人同士でのぶれない取り決めが必要ではないでしょうか。

 小さな事に思えますが、話し合いをしない事で、かえって悩みが深まる事もあるようです。何でも物を買い与えるお姑さんに、どうしても「買わないで」と言えず、その後はとても関係が悪化してしまったというお母さんのお話を伺ったことがあります。「出来るだけ早い時期に自分の考えを伝えるべきでした」と、すっかりお姑さんとは会話らしい会話が出来ないでいる状況を悩んでおられました。アイスクリームやおもちゃを買い与えても、一見取るに足りない事に思えます。しかし金額の大小が問題なのではなく、この年齢の子どもに「自制心」を学び成長させるためのチャンスを逃さず、子どもの成長のために大人たちが協力できるか、が問題なのだと思います。

 そして、この時期に自制心を学ぶ事は、広い意味での善悪を学ぶことと関係しています。子どもはお父さん・お母さんの懐から離れ、様々な感情体験をすると同時に、実は人間としての基本的なことを学んでいきます。例えば、「車の走る道を飛び出してはいけない・お店のものを勝手に持ってきてはいけない・知らない人についていってはいけない」など、どの大人も皆が同じように真剣に話してくる内容を知っていきます。つまり、この時期の子どもが身につけなくてはいけないことは、物事にはやって良いこと悪いことがあるという基準を知ること、道徳観をもつことなのです。それぞれの個性や考え方が違っていても大人たちは、特定の事には子どもに対して同じことを言って、「どうやらいつもおとうさんやおかあさんがいっていることとおなじことをいう」と子どもたちは気づきます。アイスクリームやおもちゃを買い与える生活習慣から公共のルールまで、日々の体験のなかで理解力や自制心、善し悪しの基準を学ばせたいなら、「場合によっては何でもあり」という対応をしないよう心がける事です。

 この時期の子どもはとても好奇心に満ちあふれています。自分のやりたい事をさせてくれる大人が真剣に注意してくれる内容を、純粋な心で受け止められるのもこの時期の特徴です。お預かりしたお友だちに対しても公平に、大人がやってはいけない最低限の事を真剣に伝えることで、人間としての道徳観が育つ大切な時期である事を心しておきましょう。ただ他人の家に預けっぱなしではなく、子どもに学んでほしい社会的ルールや生活の決まり事を、大人同士が腹を割って共有できる関係であれば、理想的です。これから長く続く両親以外の大人との付き合い方の基礎づくりとして、大人たちが無理をして過剰なサービスをせず、他人の子どもも我が子のように注意して育てるつもりで関わりたいものです。自分の子どもにとってお友だちが来てくれることはかけがえのないことなので、ごくごく日常的にお友だちを招き、お互いを行き来できる信頼関係を築いて欲しいものです。

 保育園では、この年齢のクラスは子ども同士の関係は充分に満ち足りていますが、大抵1~2人の保育士が担当しているため、どうしても特定の担当との時間多くなりがちです。そこで、より多くの個性的な大人たちとの関わりが持てるよう、を給食・保健・事務室・警備・清掃などのたくさんの職員が、子どもたちと触れ合う時間を工夫し、年齢・性別・個性の違う大人が自然体で子どもとつきあいながら、大切なルールは共有することを心がけています。