活動範囲が広がり、多くの人との触れ合いが増えた5歳過ぎの子どもは、他人との会話に大きな成長が見られます。知識も豊富になり理にかなった言い方は、私たち大人をびっくりさせます。と同時に何か気に入らないことがあったり、自分の思い通りにならない時の大人に対する憎まれ口も相当なものです。
 それまでは何をしてもあどけなさが伴い可愛いかった子どもですが、5歳を過ぎた子どもの憎まれ口にはその何とも言えない憎らしい仕草が加わり「正直親のほうが感情的になってしまいます」とおっしゃるお母さんも少なくありません。「お友だちから悪いことばを覚えたらしい」と思われ、お友だちとのつきあいを制限してしまうお母さんもいる位ですから、この子どもの変貌ぶりは大人のほうで相当覚悟していないと、子どもに振り回されることになります。

 特にこの年齢でお兄ちゃんお姉ちゃんになったお子さんは、ただでさえお母さんとのスキンシップが少なくなった上に、お母さんが下のお子さんにかかる時間が多くなって、声をかけられるとすると禁止事項やいたずらを叱られる事ばかりです。お母さんや大人の人に褒められようと健気にお手伝いをして大人の機嫌を伺う子どもも中にはいますが、この年齢の大半の子どもは大人を困らせることの連続で、自分の存在をアピールしている子どもの姿が目立ちます。

 年中クラスになったばかりの4~5月良く見かける光景として、クラスの中では月齢の高い子どもが、活動の節目で廊下などに寝転んで、担当保育士を困らせている姿があります。身体も大きく、どんな事でもはっきり話せるお子さんがひとたび寝転んでしまうと、話し合うだけではなかなか解決できません。子どもの心の中の「もやもや」はなかなかすっきりとした形で表現することができないのです。このような子どもの対応に、私は「赤ちゃん抱っこ」を奨励しています。当然大きな身体を抱き上げることは難しいので、椅子に座って横抱きにします。そして「よしよし、甘えたいのね~」等の声かけと共に、頭などを撫でて落ち着いたら、「あと5回抱っこね」と数を数えて、きっぱりとおろすことにしています。言葉や理屈では自分の気持ちを充分に表現できない子どものケアにスキンシップが大きな年齢になったお子さんにこそ有効なことが分かるでしょう。5歳前後の子どもがやんちゃを働き大人を困らせる理由は、「もっと私を見て!私をかまって!」と言いたいからです。いたずらや悪い事をしてしまった子どもを叱りつけるのではなく、抱き取って落ち着かせてから気持ちを聞いて、悪かったところを話し合いましょう。そして「こら~こんな事をしたらくすぐっちゃうぞ~」等の遊びに変えてしまうのも、一つの方法かも知れません。

 この年齢ですでに下の弟が生まれていて、ずっと「おりこう」でいたある女の子がいました。女の子はとても利発で、毎日男の子と遊ぶ活発な子どもでした。女の子はグループの男の子に対して結構乱暴なことばでケンカをするようになっていて、グループでは、女の子の物言いに怒って、男の子がたたいたり顔をひっかいたり等のケンカも絶えなくなりました。女の子は、お母さんからは「暴力は絶対に許しません!!」と注意を受けていましたが、子ども同士のケンカはエスカレートしていました。一年位経った頃、女の子は、「○ちゃんをたたけ!」「○ちゃんものを捨てろ!」等の指令を出す形で、自分は直接手を下さない方法を考え出し、いわゆる「いじめ」のようなことが始まりました。女の子はお母さんから禁止されている暴力を直接振るうことはしませんでしたが、女の子なりの反抗心・闘争心をこんな形に表したのです。

 その後女の子に言われてお友達をたたいたり物を隠したりした男の子のお母さん同士に集ってもらい、「子どもたちを強く叱らないで」と言う約束のもと、いけなかったことはきちんと説明してもらう事にました。担当の連絡帳で同じことをお願いして、女の子のお母さんの協力も得たので、おそらくお子さんとお母さん方との話し合いがあったのでしょう。大人たちが本気で心配してくれたのが嬉しかったのか、その後の子どもたちの表情からとがったものが消え、この年齢らしいやんちゃな顔に戻り、ケンカも大きな声で堂々とするようになりました。子どもたちも自分達のしていた事をひそかに悪びれていたに違いありません。悪い事をしていると感じながらも、私たち大人をふり向かせたくて、いたずらがエスカレートしてしまったのです。

 この小事件は大人の話し合いがあった次の週にはまるで何もなかったように収まり、平穏な日々に戻りました。この子どもたちが卒園する時には、ほどんど他の子どもたちと変わらず集団活動に馴染み、活発に日々を過ごしていました。この小事件を思い出すたびに考えることは、この年齢のいわゆる子ども達の「悪態」には必ず何らかの理由があるということ、そして大人にはそれを適切にキャッチする責任がある、ということです。大人が子どもの気持ちに沿って考えてあげないと、子どものネガティブな表現には拍車がかかる一方でしょう。この年齢で、今までとは違ったレベルで「悪い事」をするようになった子どもを「理解できない」と突き放したり、「悪い子」と決めつけるのではなく、体を張って必死に「表現」しようとする子どもの気持ちを、大人が正面から受け止めてあげてはじめて、子どもの感情的成長が見られるのです。

 子ども同士のケンカは大人のそれとは全く違って、むしろ子どもが様々な感情の葛藤をコントロールするための大切な訓練手段でもあるので、ただ「ケンカはだめ!」と禁止するのではなく、ケンカのルールを決めて見守りながら守らせるなど、子ども達の日常から目を離さぬことが、私たちたち大人の重要な役割りだと思っています。