年中児クラス後半から年長児クラス前半には、「第2の反抗期」と呼ぶ人がいる位の子育て困難期がやってきます。体力も知恵もついてきた分、思わぬ巧妙ないたずらや悪態を考え出し、思うようにいかないことがあると、びっくりするほどの体力でダダをこねて大人を困らせます。集団生活でのトラブルの連続に本気で悩まれる方もいる時期です。

 今までに見られなかったネガティブな思いの表現力に驚き、「集団生活の指導が甘い」と外側に原因探しをしたり、反対に「この子は悪い子!」と個人の性格に原因を求めてしまう方がおられるかもしれません。しかし、子どもを主体として考えるとそのどちらでもありません。この時期のネガティブな感情表現は、子どもが成長するために必要な試練や、大人に本気で向き合って欲しい気持ちの現われと考えて頂きたいのです。

 確かに集団生活はストレスのかかる場ではありますが、「群れる動物」である人間にとって、精神的葛藤経験は感情的な成長に欠かすことは出来ません。幼稚園や保育園、さらには学校での集団への「不適応」が大きく注目されてしまうのは、現代の子どもたちが葛藤感情の「訓練」をする場面が劇的に減っているからだと思います。都市部の少子化の傾向は加速化し、親世代の兄弟・姉妹数の減少により、子どもがリラックスして人間関係を学べる親族が激減しています。地域社会・家族関係から得られる様々な人間関係が欠落してしまっている環境の中で、日々通う園の集団生活が子どもにとってはとても重要な場所になっています。

 家庭内での葛藤経験が少ない子ども達が幼稚園・保育園の集団に属すると、保護者の方々には想像の範囲を超える子ども同士のトラブルは多くなります。自分の幼少期には体験したことのないトラブルを見聞きすると、「集団の質が悪いのではないか?」と疑いたくなっても当然かもしれません。しかしこれは、「少子化・核家族時代」の子どもにとっては必要不可欠なトラブルなのです。就学前の幼児集団は、子ども同士がぶつかり合いながらも、その後関係性が修復されて癒される場でなければなりません。そうした葛藤を経た後、子どもの心の中で「ぼくは仲間に好かれている、この集団に必要な人間」と思えることが何より必要なのです。幼稚園・保育園でのトラブルは「成長のための不可欠な学び」と捉えて、むしろ貴重な経験が出来る機会と、ポジティブに考えて頂きたいと思うのです。

 反対にこの時期のトラブルを「子どもが悪い子だから起こす」と決め付けることも、自分の子どもであれお友だちであれ、差し控えて頂きたいと思うのです。実際は、この時期にたくさんけんかをし、たくさん泣いた子ども程、卒園する頃にはチャーミングな優しいお兄さんお姉さんに成長する姿を数多く見てきました。特に男の子の保護者の方には、泣くことを「男らしくない」「弱い」などと捉える方もおられます。しかし子どもにとって泣くことは感情のバランスを取る大切な行為です。大河原美以先生は『ちゃんと泣ける子に育てよう』(河出書房新社)のなかで、「子どもが泣くのは心が風邪をひいた生理現象、思いっきり泣かせてあげよう」と、子どもが泣く体験の重要性を述べられています。むしろ大人が子どもの泣く姿を受け止められない事が問題であると指摘されています。大人は、子どものネガティブな感情をしっかりと受け止めてこそ、子どもの心に向き合うことになるのです。

 ではこの時期のトラブルの原因はどこにあるのでしょうか?この時期特有の反抗やトラブルは、子どもに自発性や自立心が育ってきたが故の、「もっと自分を信じて、色々やってみたい」という気持ちの表現だと考えるべきだと思います。もしこの時期に、お子さんの反抗心が強まっているなら、自分の思う通りに力を試したり、行動できていないサインと見て、「こうすべき」という大人の期待を過度に押し付けてはいないかを、考えて頂きたいのです。

 就学前になると、私たち大人(家庭であれ子どもが通う幼児集団であれ)は「社会の通念に適応させねば・子どもの将来を思って」と厳しい躾を求めるケースが見られます。加えて就学前に何とか学習習慣をつけたいといった考えで、学習塾に通い出すお子さんも少なくありません。「子ども対応が難しいと」感ずる場合、少しばかり一方的な大人の「良かれと思っての躾」がないか見直してみて欲しいのです。
 ※長谷川博先生は、多くの少年犯罪の加害者の心理分析から、「躾」が子どもの心の発達に影を落とすことを、『お母さんは躾をしないで』(草思社文庫)で書かれているので、参考にして下さい。

 幼児期には自分でできる、やろうとしている事への大人の手がけ・声かけはむしろ過干渉で、子どもは鬱陶しがりむっとして、大人の声かけを無視するようになります。子どもは主体性を発揮し活動したがりますが、そうすれば当然失敗もあり、友だちとの競い合いの中で悔しい思いもあります。その経験は子ども自身が成長するためには欠かせないことなのですが、現代の子どもにはこの経験が著しく減っています。

 すでに懐かしいニュアンスで語られる「昭和の子どもたち」が育った時代は隣近所のお付き合いがあり、私自身の子どもたちもお休みの日となればどこかの家に上り込んで遊んでいました。危ないことをしていて近所のおじいさんに親の私まで叱られた事もありました。大人にも子どもにも、近所の大人たちがそれぞれの場所で見ていてくれるという安心感があり、子どもは子ども同士で遊びの中で揉まれていました。その子どもたちが幼稚園・保育園にも通っていて、お友だちとのけんかや子ども自身の怪我も当然あった訳ですが、私達親はとても呑気に対処していました。

 こうした時代から、地域社会の大きな変化によって核家族の子育てのあらゆる事柄を家庭単位に任され、仕事に忙しい父親に代わって母親の孤軍奮闘が目立つ時代に変わってきました。当然母親も忙しく子ども達が日々何事もなく過して欲しいと願う気持ちは充分に分かります。しかし幼児期に大人しかった、ケンカひとつした事がなかった子どもの思春期での大きな反抗や引きこもりの事例・事件はあとを断ちません。

 この時期の子どもは体力的に爆発的な成長を見せます。一日中身体を動かしているのが健康な子どもの姿です。子どもが大人にいらいらし反抗的な表情や態度を示す原因は運動不足だからと、『元気が出る子育ての本 3~6歳能力を伸ばす個性を光らせる』(主婦の友社)の中で汐見稔幸先生が分かりやすく書かれています。お休みの日はお子さんが通っている園のお友だちと一緒に広い場所で、目一杯身体を動かして遊ばせてあげてください。その時約束できるお友だちを家に預かってでも、子ども同士遊ばせることが必要な時です。身体をたくさん動かし、親の元で安心しつつ子ども同士の葛藤を経験させることが必要です。幼稚園・保育園は様々な活動を準備するとしても、子どもたちの人間力を育てる為にはご家庭の生活の幅を広げ、家族同士の交流が子どもたちの豊かな人間力を育むことでしょう。