歩行が始まり、手が自由に動かせるようになった子どもは、記憶力に加えて知力も育ち始め、いよいよ乳児から幼児へと成長段階を昇っていきます。そうした発達に伴って、子供が自らの欲求の実現を積極的に求める機会が増え、手ごわい駄々で大人を困らせはじめます。自己主張は自我が育ってきた証拠なので喜ぶべきことなのですが、大人にとっては大変な時期の始まりでもあります。子供の自発性を大切にのばしながら、危険や厄介事を極力避けるために、大人たちはどのように子供たちと付き合えばよいのでしょうか?

まずこの時期の子どもの特徴は、大人の行動の模倣を始めることです。「いいお顔」「ちょち・ちょち・あわわ」等の、いわゆる大人を喜ばせる芸を卒業し、大人の行動そのものに大きな関心を示すようになります。子供たちは大人の行動を実に真剣に観察していて、毎日大人が使う掃除機を触ったり、台所の引き出しなどを開けたがり、「どれだけ自分に触らせてくれるか」を試しているかのようです。「掃除機を触っても何も出来ないでしょう!!第一汚いわ」と、大人はついそんな風に思いがちです。しかし子どもにとっては掃除機に触るだけで、大人のように「ぶ〜ん」と掃除機を動かしている気分になれるのかもしれません。あるいは「動かすのはなかなかむずかしい」とでも思うのでしょうか、触ってしまえば案外あっさり気が変わるものです。子供が何かをやりたがった場合は、とにかく、大人の都合で頭ごなしに否定するのではなく、やりたいことをやらせてあげてみてください。やらせてもらっている瞬間のお子さんの表情を良く観察してみると、実に嬉しそうな、満足気な表情をしていますよ。赤ちゃん時代は目に入っても触ることが出来なかった生活用品にひとまずは触らせてあげて、ついでにコンセントやガスなどのスイッチは危ない所だということを言葉でしっかり伝えることが、大切なことではないかと思います。

この時期のもうひとつの厄介な事柄とは、手づかみで食事をしたがることです。ご家族の中で、「お行儀が悪くなった」と思う方がおられると、お母さんはお子さんの手づかみを叱るようになります。するとお子さんはプイと顔を横に向けて食事を拒否するようになります。私たちの保育園で試みている“離乳食レストラン”を利用される方の中に、この様な時期にぶつかって「食事をしなくなって困った」とおっしゃる方が何組もありました。お子さんが手でつかめるように、俵のおにぎりや大きめに切った煮物などを手に持たせると、実に嬉しそうに口に運びます。保育園では、この時期は食べこぼしを見込んで普通の1・5倍ほどの食事を用意してもらうので、保育士さんも安心して子ども自身が自分の手で食べ物を口に運ぶのを見守っています。けれどお腹が満たされてくると遊び始めるので、時間を見計らって切り上げます。

また、お気に入りの行動(お散歩、テレビ番組、水遊びなど)を覚えていて、それをしたいとせがんだり、叶わないと身をくねらせて泣いたりし始めるのもこの時期です。楽しかった行動の思い出が記憶に定着して、それに関連する何かを通じて楽しみを求める行動をアピールします。たとえば、お散歩に行く時には必ず帽子をかぶっているのなら、帽子をかぶることで、「お外へ行きたい!」とアピールし、テレビを見るときに決まった椅子に座っているなら、そのお椅子に座ってテレビを指差します。テレビを見せておくと静かにしていてくれるから大人にとって好都合かもしれませんが、大人の予定にかかわらずテレビを見たいと要求し、叶わないと泣き叫ぶとなると大変です。そんなときは、場当たり的に言われるままに欲求を叶えるのでも、一方的に否定するのでもなく、「これだけ見たら終りね」などと言葉をかけて、約束事を作って守るようにしていきましょう。

一見厄介な行動が始まったように見えるこの時期の行動には、とても重要な意味が含まれています。まずどの行動も、子どもが意欲を持って自発的に意欲の実現を求めているということの表れなので、どうか子供の意欲を決して否定せずに、行動の達成感を味わせてあげて下さい。様々なことに自分で挑戦することで、それを認めてくれる大人を信頼するとともに、「自分はとても大切にされている・自分のしたいことは何でもできる」といった自己有能感・自己肯定感の基礎づくりをすることになるからです。また、日々の繰り返しの中で大人の言葉が実際に守られることにより、子ども自身の待つ心が少しづつ育ち始めます。つたない子供の自己表現に、丁寧に、そして確実につきあってあげる事で、子供の心に自発性と忍耐が育っていきます。

保育園では大変ありがたいことに、遊びは保育士さん、食事は調理師さんと役割が別れていて、遊んだ後には必ず食事が出てくる、つまり生活のリズムがかなり決まっているということにより、子ども達はだんだんと生活リズムの予測がつくようになってきます。遊びたい・汗を流してさっぱりしたい・食べたい・眠りたいといった生理的欲求が日々繰り返して満たされることにより、私たち保育者を信頼する心が育ってきますし、リズムがはっきりしているので、駄々をこねる事がご家庭よりも少ないように見受けられます。従って、ともかく日々の生活がある程度規則的に進むことが、この時期の子育てを平和に進めるコツのようです。生活のなかで習慣とリズムをつくって、それを守ってあげる事は、まだ完全に自己をコントロールできない子供の「揺れ」を最小限にしてあげる意味があります。そして大好きな遊びや、美味しいご飯、安心して眠らせてくれる信頼できる大人が、時には危険を注意したり、何時間もテレビを見てはいけないことを真剣に伝えることにより、子どもも大人の真剣さを必ず理解することが出来るのだという信念を持って、お子さんに接して頂きたいと思います。子ども達が大きくなった将来、積極的に自分の人生を切り開いていく行動力の芽はすでに芽生え始めています。