満1歳の誕生日から半年も過ぎると、もう赤ちゃんと呼ぶには似つかわしくなくなり、よちよち歩きはいつの間にか、しっかりとした歩行に変わっています。ようやく歩き始めた頃は、赤ちゃん自身相当なエネルギーを消耗し、くたくたに疲れるようですが、よろけることもなく歩けるようになって赤ちゃんらしさが抜けてくると、子どもは歩くことでそれほど疲れなくなります。

歩くことにあまり神経を使わなくても良くなった分、子供自身もあちこちを歩き回って生活のあらゆる物に強い関心を示すようになります。そして一つ一つの物には名前があるらしいと気付き始め、目に付いたものはすぐに手に取って大人の人に向かって「これはナニ?」と問う表情をみせます。子どもにしてみれば真剣に知りたい気持ちによる行動ですが、忙しいお母さんにとっては、日常的いたずらの一つに見えるかもしれません。上手に歩ける嬉しさに加え、高いところに登れる嬉しさも加わり、思わず「あぶない!!」と叫んでしまう場面もたくさん出てくるのもこの時期です。保育園の1歳児クラスに入園してくる月齢の高いお子さんの親御さんに、「うちの子供はちっともじっとしていられなくて、多動症ではないかと心配しているのですが」とおっしゃる方が何人もおられますが、どの子も好奇心を運動で表現する時期なので、心配はいりません。

私の長女も丁度その年齢の頃、大変な「いたずら」をした事を覚えています。長女が昼寝をしているからと台所で片づけをした後、しばらくして娘の寝ている部屋に戻ってみると、布団の中はもぬけのから。すると何やら頭の上の方で「くっくっ」と嬉しそうな声が聞こえたので見てみると、何と整理ダンスの引き出しを開いて階段のように使い、横にあった洋服ダンスの一番上に乗って笑っているのです。思わず息が止まりそうになり、頭から血が引いたことを思い出します。そしてそれから1週間位、夜中に何度も目がさめては、その場面を思い出しました。何でもなくて良かったけれど、目を離した自分を責めていました。

日中たった一人で育児と家事をこなされているお母さんにとって、子供の危険への心配は尽きないでしょう。私の娘のように活発で、怖いもの知らずの子どもは沢山いると思いますし、体力が旺盛でいたずら気質も充分な子どもは、次々に大人をびっくりさせることをしでかしてくれるものです。しかしまだまだ「あどけなさ」の残るこの時期、子供を叱る事にも躊躇するのではないでしょうか。1歳前後の赤ちゃんだった頃は、危ないと思ったらひょいと抱きかかえてその場から離せば何とかなったものですが、1歳半も過ぎると子どもはかなり自分の意思を持って行動しています。「あぶないでしょう」と抱きかかえて違う場所に連れて行こうものなら、たちまち大声で抵抗を示します。

先日保育園の1歳児の部屋から大きな泣き声が聞こえてきて、何事かと行ってみると、いよいよ危ないことをして(パジャマ袋の紐を首にかけていて)男性保育士さんに叱られていました。この様に大きな泣き声になってしまうと、子どもはもう大人の言うことを聞きません。「抱いてお話してあげて」と保育士に伝えると、泣いていた男の子は自分の一番大好きな女性の保育士さんに抱かれ、ようやく泣き声が止まりました。「お首に紐を巻きつけたら危ないね、あぶない・あぶない」と諭すようにやさしく伝える保育士さんの顔を見つめて男の子は、前よりずっと素直な表情に変わっていました。

子供に分かってもらう為には、叱る大人と子供との関係が、かなり親密なものに成熟していることが大切です。そして「二度とこの様なことをしないようしっかり叱っておこう」という、大人の愛情から発した行為であるにも拘らず、大人がつい大きな声(感情が含まれる)になってしまうと、まだこのくらいの年齢の子どもでは、恐怖心が先立ってしまいます。加えて子どもは自分の存在を否定されたと思ってしまいます。大人の気を取り戻そうとするのか、大声で泣いたり、寝転ぶ・頭を床にがんがんと打ちつけるなど大人を困らす行動を取るようにもなります。そこで大人がうろたえたりしたら、子どもはもう味を占めて、「こうすれば大人は言うことを聞いてくれる!!」と思うのでしょう。ちょっとしたことでこのやりとりが始まり、繰り返される事で、その“大人を困らせる行為”は徐々にエスカレートしていきます。

とにかく子どもの行動は日々活発になっていくものです。危険が伴い、日々の生活の中でこれだけは叱ってでも分ってもらいたいということはいくつか出てくる筈です。それを伝える「こつ」は、子どもの身体のどこかに触れ、じっと子どもの眼を見て、「○○だからやってはいけません」と毅然とした態度で伝えることです。そしてその声は低く、叱る言葉は短く、くどくない事が大切です。子供から離れたところから大きな声で叱ると、声がどんどんエスカレートする上、子どもの方でも大人の声を聞き流す癖がついてしまいます。

1歳半という年齢は、自分の身の危険について注意を受けることがあることを少しづつ記憶できる年齢です。何か危ないことをしているお子さんを見て、大人が「○○ちゃん!!」と緊迫した声をかけた時、さっと大人の方に振り返らないお子さんは、大人との親密な関係(愛着関係)が出来上がっていないという風に考えなくてはなりません。いざと言う時にしっかり叱れる大人でいる為には、日頃子ども達の正当な生理的欲求には充分答え、たくさん甘えさせてあげて、子どもから見た大好きな大人でいるよう心がけたいものですね。