「最近の幼児(3歳以上の幼稚園・保育園児)は、「おままごと」をしなくなった」という意見が幼稚園・保育園の関係者の方々から聞かれるようになってから、10年以上もの年月が過ぎたように思います。

確かに20年前の幼児たちは、いわゆる「おままごと」といわれる「ごっこ遊び」をとても楽しそうに繰り広げていました。その姿には、お父さん・お母さんの役割も明確に現れていました。ある男の子はいつもお父さん役をやっていたのですが、必ず「ちょっとおさけかってくる!!」と言いながら、あわてた様子で出掛ける役をしていました。それを見て、子供は親の姿をとても良く観察していることに、ご両親と共に感心させられたものでした。子ども達のおままごとは、子ども自身の想像力を育て、友達とのコミュニケーション力を見事に育みます。かつて、賑やかで実に楽しそうなおままごと遊びが幼児集団の中で持続したのは、子ども達の家庭生活の体験が、殆ど各家庭共通していたからでしょう。そして父親・母親・兄弟姉妹の役割が、幼児の目から見て明らかに分る形で分担されていたので、「おままごと」が持続できていたのだと思います。

しかし世の中の仕組みもだいぶ変化し、仕事の上でも“男女雇用機会均等法”の成立以来、女性の社会進出はめざましいものがあります。全ての子どもがいつも決まった家事をこなす母親の姿を見るとは限らなくなったいま、子ども達の遊びの中から「おままごと」が消えていくことは当然の事のように思えます。幼児に共通の体験としての「おままごと」が見られたのは昔のことになってしまいましたが、最近の幼児達が「ごっこ遊び」(見立て遊び)をしなくなくなったかと言うと、決してそんなことはありません。確かに、お父さんお母さんそして兄弟・姉妹が登場するおままごとは殆ど見られなくなっていますが、 「ペットショップごっこ」「レストランごっこ」「イルカショーごっこ」「動物ショーごっこ」そして「お店やさんごっこ」等などは、子ども達が夢中になって遊ぶ「ごっこ遊び」です。子ども達の様子を見ていると、基本的に「楽しい!!」と感じた体験を再現する一人の子供を中心に、「ごっこ遊び」がはじまります。ある行為の楽しさを思い出し一人の子どもが遊びだすと、共通の記憶がある子どもが次々に参加していくのですが、共通体験が無い場合は長い時間持続することが難しいようです。ですから保育園では、子ども達の年齢別に保育園での共通体験をもとに遊びを設定し、「アリさんごっこ」「お店屋さんごっこ」「絵本ごっこ」などを計画します。特に「絵本ごっこ」の遊び方については、後ほどのテーマで詳しくお伝えしたいと思います。

ところで「ごっこ遊び」は何歳位から始まるのでしょうか?前回の楽しく子育て⑰“子どもを叱る”の中でも書きましたが、1歳半を過ぎた子ども達は歩行が安定してきて、歩くということに神経をとられることも減り、体力もさほど消耗しなくなったことにより、大変なエネルギーが満ち溢れてくる時期に入ってきています。私たち保育園の職員はこの時期の子ども達を「探索期に入った」と表現していますが、とにかく一日の活動の70パーセント以上はぐるぐる動き回ることに費やし、後の3割の活動はその動き回った時に感じた様々な事柄の確認作業をしているかのようです。子供たちは、大人のする事や身の回りの諸道具に大きな関心を持ち、実にこまめにそれらを確かめ、大人のする通りにやってみるようになってきます。

例えばヘアーブラシのようなものを手にすると、ちゃんとブラシを頭にもっていき、毛を梳かすような仕草をしますし、軟膏のケースや化粧品の容器を見つけると、ふたを開けて、頬に塗ってみたり、大人が「いつの間に見ていたの?」とびっくりするようなことを度々やってくれます。あるお母さんによれば、化粧バッグの中身を出されてしまった時、子供がちゃんと赤い口紅は口元に、青っぽい色は目元にぬっていたそうで、子どもがいつの間にちゃんとお母さんのお化粧の仕方を観察していたことが分りびっくりされたそうです。これが正に、ごっこ遊びの始まりです。子どもにとっては大人の真似は何とも面白いようです。その理由一つは、この年齢になってくると、品物に対する興味が、その品物を大人がどのように使っているかという、大人の行為そのものへの関心となる事があります。たまたま目にした品物から、大人の行為を思い出せるまでに知的に成長したので、子どもは大人の楽しそうな行動を真似し、遊びとして展開していきます。しかし2歳前の子どもの「真似事」のほとんどが、大人にとっては“いたずら”として見えてしまいます。そのことでひどく叱られ、様々な道具をすっかり片付けられてしまうと、子どもにとってはたくさんの体験のチャンスが失われてしまうことになります。子どもは、既製品の遊具と同時に、家庭の中にある大人たちが直接手にとって動かしている道具に大きな関心を示すものです。ですから子供用玩具の中に安全で清潔な本物を紛れ込ませておくと、お子さんはきっと喜ぶと思います。ふたの開け閉めが面白いタッパーの容器等は、中身にDIYショップにあるようなプラスチックのチェーンなどを入れてあげると、食材に見立てて真剣にかき回したり、大人の動きを再現します。

2歳前の子どもたちは3歳過ぎの幼児達とは違って、まだまだ生活体験が少なく、毎日繰り返される家庭内の日常生活が最も身近な関心事です。そして幼児達の家庭に比較して外食も少なく、お母さん・お父さんが家で食事を作っているケースが圧倒的に多いでしょう。2歳前後の子どもが食事作りの真似っこ遊びに興じられるように、是非小さな鍋とガス台に見立てられる箱などを用意してあげましょう。そして時には、お子さんのつくったご馳走に「いただきます」「あぁ〜おいしかった!!」等とつきあってあげると、お子さんにとって最高に楽しい時間になり、後の遊びの豊かさにつながります。「おままごと(家族ごっこ)」が子どもたちの遊びから消えていったとしても、子ども達は大人の何気ない日常の営みをじっと観察し、大人と同じようにやってみたいと常に思っています。私たち大人がいきいきと生活することにより、子ども達はいつの間にか、日常の道具の使い方を覚え、生活のなかの大人たちの様々な感情をも感じ取って、その生き様からも大きな影響を受けて日々成長していくのです。