若水会創設者 西野和子

若水会の給食

「保育園に子どもを預けるなんて可哀そう!!」という時代

若水会の給食の原点は、私が未認可保育室を開いた頃の思い出につながります。
未認可の保育室を開いた1970年代後半、世の中は高度成長のうねりに反して、様々な形の市民運動が盛んな時期でもありました。職場での労働運動・女性解放運動・消費者運動(現在の生協組織の原点)・障碍者解放運動・保育所設置運動等々、私自身は子どもを持つと女性は仕事を諦めねばならないと言った自身の経験から、保育所設置運動に大きな関心を持っていました。
当時は「保育園に子どもを預けるなんて可哀そう!!」と誰もが思っていた時代でした。確かに極端に悲惨な未認可保育の光景が、テレビに映し出され「そんなところに子どもを預けるなんて」と母親を非難する声が大きな時代でもありました。そうしてでも仕事に出なくては生きていけない人、又仕事を続けたい人は多くいることを私自身も感じていたので、保育園づくりは自分が取り組まねばならない使命と考えたのです。

まずは安全な給食を提供する

そのために「子供が預けられて可哀そうではない保育室づくり」が何より大切と思いました。まずは未認可保育室(無認可保育室との違いは、保育室としての一定の基準を充たし補助金が頂けること)を開く準備をすすめました。子どもたちを他人の手に委ねる母親達の不安を除くために「まずは安全な給食を提供する」ことを第一に掲げました。それは「自分の子どもに安心して与えられる、無添加で無農薬の食材に徹する!」ということでした。
野菜は、当時始まったばかりの無農薬野菜を引き売りする業者さんから購入することにしました。また私自身が自宅で購入していた地域の消費者団体からパン・魚そして無添加の調味料の数々を購入し、完全に無添加・無農薬の食材を使った給食を未認可保育室開室時に実現したのでした。

なんでも自分たちで考え、工夫する

さて食材の調達は順調に実現したものの、いざ給食の献立を作成し、調理をする専門職の栄養士・調理師さんが居る訳ではありませんでした。私を含めた3人の保育士(当時は保母という呼称)と一人の非常勤の方で当時お預かりしていた10人の子どもたちの保育に当たりつつ、主にベテラン主婦の非常勤の方から調理の様々を全保育士が学び、交代で給食づくりに取り組みました。
この「なんでも自分たちで考え、工夫する」は未認可時代の最後まで続きました。自分達が考え調理した給食を子ども達が美味しそうに食べてくれる。そうした姿を見ることで、保育の仕事が多くの人の流れの中で作られていることを知りました。この経験は、その後の若水会の給食を皆で考え、大切に提供する土台になったと思います。未認可時代の後半には幸いにも栄養士さんに就職してもらい、より専門的な見地から現在の給食の基礎づくりが出来ました。

給食を通じたSDGsの取り組み

認可保育園になってからは、肉・豆腐・豆乳を運んでくれる業者が加わりました。現在では未認可開設当初盛んに取り組まれていた消費者活動を行っていた父親の代から志と事業を引き継がれた業者さんとも巡り合えました。こうした業者のみなさんのおかげで、若水会も給食を通じて、持続可能な農業を展開する農家さんを支える、SDGsの取り組みに参与することができるのです。数十年来の食をめぐる社会運動を知る人間としては、なんともうれしい限りです。
このように若水会の給食は様々な試みを引き継ぎ、未認可時代献立を保育士同士で考え合っていた頃から数段成長しました。現在では毎月の献立会議を通し、子ども達の喫食状況の情報交換・メニューの工夫など活発な意見交換を行い、各園同じ献立・安定した食材購入を行っています。毎日のメニューはHPの各園「今日のお昼ごはんとおやつ」写真としてご紹介していますので、ぜひご覧になってください。
時代が変わり「保育園に通って可哀そう!」とは言われなくなりましたが、日々お子さん方が口にする給食が安全で美味しくあってほしいと思う保護者のみなさんの気持ちは同じではないでしょうか。どのような時代であっても、若水会の給食は見てうつくしく、豊かな味が自慢です。

食事から育てられる様々な感覚は子ども達の一生を決定づける大切なもの

0歳児から保育園に通う子ども達にとっては、食事から育てられる様々な感覚は子ども達の一生を決定づける大切なものです。保育園を卒園して中学・高校生になって保育園を訪ねてくる子どもたちの開口一番は、まず給食の匂いを感じ取り「この匂い覚えている~」という言葉です。乳幼児期は非認知能力が育つとはまさにこのことではないでしょうか。

大きな願いとささやかな試みからスタートした若水会の給食は、今では、季節ごとの保育実践と連動した法人内各園の多様な食育活動にまで発展しています。今回この文章を書くにあたって、若水会のすべての職員のこれまでのひたむきな努力と工夫の数々を思い起こし、頼もしさと感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。同時に、私たちの食を支えてくださっている業者のみなさんの日ごろのお力添えにも厚く御礼を申し上げます。これからも若水会の食は良き伝統をふまえつつ、新しい時代の変化を取り入れ続けていくことでしょう。

令和4年9月20日
社会福祉法人若水会 創設者 西野 和子